友人がお笑い芸人を貸し切っていた

友人が推しを呼んでイベントをやるというのでついていったら,そこには九月という芸人が鎮座していた.

九月という芸人は全身黒づくめ,巨体のわりにかわいらしい顔とぼさぼさの髪の毛が印象的で,おそらく配信に使うのだろうと思われる業界二番手くらいのアクションカムをのぞき込んでいた.たぶん画角を調整していたんだろう.

部屋には既に6人ほどのお客さんが来ていて,八畳一間とダイニングスペースがつながった空間が人の息遣いであふれてきている.でもやっぱり芸人というのは別世界に生きている人間なのか,そこには独特な空気感が漂っていた.アクションカムの設定を終えたらしい主役の芸人はお客さんと一定の距離を保ちながら,開いた足をぴんと延ばして座っていて,かわいらしい.

 

それで何だったっけ.

そう,主催している友人が事前に言っていたところでは,仲間内で運営しているシェアスペースの一周年企画として推しの芸人を呼ぶことにしたらしい.「推し」と聞くと無条件にかわいらしい女の子を想像していたのが裏切られながらも,アイドルを呼ぶなんてどれだけお金を持っているのだろうと思っていたところにこの答えで,少し安堵する.

いくらくらいかかったのかと聞いてみると,フィリピンへの往復航空券よりお手頃価格だと言っていた.コロナの巣ごもり需要はこんな形でも発揮されているのかと合点しながら,芸人というのはそんな金額で東京から呼び出されて働かされるのかと黒いかたまり然としたこの芸人にあわれみを覚えるなどした.

 

それで何だったっけ.

ネタは面白かった.それ以上特別言う事は無いのだろうと思う.個人的には言葉の概念を拡張させていくネタが大好きだったが,他のネタも全部きちんと笑えて2時間半の間コンスタントに笑いが起こっていた良いイベントだった.

会が終わってから企画者と居残った参加者たちで軽い打ち上げなどしてお酒を飲んだりして,九月という芸人も相変わらず輪の中心にいた.初めはネタ作りなどについての方法論などを聞いてきちんと答えてもらうなどしていたのだが,いつからおかしくなっていったのだろうか.さすが芸人,お酒が入ってペースが上がるとずっと面白いことを言っていたことを覚えているけれど,自分が飲みすぎたせいか具体的に何を言っていたのかは覚えていない.唯一覚えているのは,お題として出た「味噌汁」というキーワードに対して,「味噌汁プールでけつ開き」といいながら踊っていたことだけれど,何が面白かったのか今ではわからなくなってしまった[1].

結局15時から始まったライブの2時間だけかと思いきや,そのあともかなりの時間を一緒に過ごしたこととなり,海外旅行とコンパラ[2] な金額でお笑い芸人という異文化を経験できるので,なかなか粋なお金の使い方をして遊んでやがるな,と思った.

あまりにも鬼気迫る表情でなにか大きなものを表現しようとしている九月

1. 翌日のライブでこれが実演されることはなかったが,前座の中で没ネタとして紹介されていたようだった.

2. なんだこのゴリゴリの理系用語は,と言われた.どうやら「同等」とか言うらしい.